平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「少し考えれば、すぐに分かる事ですよ。」
アタシをチラリと見て、「何でもお見通し」という様な笑みを向ける。
「っお願いします!!この事は誰にも言わないでっ!!」
悲鳴にも似たような声を上げる。
だめっ!!この事が人に知られてはいけないっ!!
ドクドクと、身体全体から異常に速い音が聞こえる。
それなのに、貴雄様から聞こえて来たので驚いた。
「大丈夫、この事は他言しません。いずれは東宮妃となられる、高貴な身…大事にしなくてはなりませんよ?」
「あ、はい…」
「ありがとうございます」と、余りにもあっさりした貴雄様に呆気にとられ、いつしか脈も通常に働いていた。
「送ります」と言う貴雄様に、丁重にお断りをいれ、その日は都を散策する気にもなれず、まっすぐに二条邸に戻った。
──貴雄様。
いったい、どおいうお方なのだろうか…
御帳台に戻っても、貴雄様の顔が離れずなかなか眠ることが出来なかった。
偶然にも、二度この広い平安京で出逢った人。
普通の貴族の姫なら、こんな事は絶対に起こりえない。
入内を控えているアタシには、もはや不要の出逢いなのに…