平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
こっそり西対の御帳台に入り、無理矢理寝ようとしていた時、ズズゥッと胸に暗く冷たいモノが落ちた。
「!?」
今しがた無理矢理に寝ようとしていた事も忘れ、寝着のまま衣も掛けずに妻戸から簾子に飛び出る。
パッと顔を上げ、沢山輝く星の中から北極星を見上げる。
異変は……無い。
帝を表す北極星に異変がある事は、あってはいけない。
ホッとするのも束の間、直ぐに周りの星を見渡す。星の動きには全て意味がある。
沢山の星たちの中の一つだけでも、変化があったら何かが起こる前触れ……。
早急に対処しなければならい。
別にアタシがしなくても良い事だとは思う。だけど、宮廷の陰陽師全てが有能な訳ではないのだ。
安倍の一族、賀茂の一族…本当に信頼に足るのは陰陽師の中でも、この二族だけだろうとも貴族たちは噂する。
まぁ、それも殆んど当たりだろう。陰陽寮の役人の中には霊力を持たぬ者も居るのだから。
…此処からでは東北、東、南東の空が見えない。それらの空が見える対屋まで移動するのがもどかしく、裸足のまま綺麗に手入れされた庭に降りる。
今が冬で雪が積もっていると言うことも、アタシが飛び出した事に気付いた女房達の「姫様?」とアタシを呼ぶ声も気にせずに、無心で空を見る。
北から右回りで星々を確認していた時───
「…あった!!」
東北東の方角。
微かだが、いつもより光が弱い星が一つある。たが、全て影ってしまうのも時間の問題だろう。