平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



見付けると同時に、自分の部屋へと駆け戻る。



灯りが点き始めた母屋に入ると、女房達が集まってくる。



「姫様、いったい何処に!?」



「まぁ、大変!!身体が冷えきっていますわっ!!」



そういった女房達に構う暇もなく、御帳台の側に片付けておいた六占羅盤に向かう。



ここで、いつもなら真っ先に説教を始める柊杞は何も言わず、周りの女房たちを宥めている。



長年アタシに仕えてきた乳母だけあって、アタシの考えている事、しようとしている事が分かるのだろう。



お父様や兄上ほど占いは得意ではないが、意識を集中させ何を占いたいかを確立させる。



しかし…



「…はっきりとした答えが出ない……。」



鬼は心の闇が深い人間を好み、その人間に憑く。



そして、その心の闇が深ければ深いほど、強い鬼を呼び寄せてしまう。



だから、占いの結果がはっきりとしないのだろう。



──こんなにはっきりとしているのだもの…きっと、今に凄く大変な事が都で起こる。



同じお邸にお父様が居ないことを、これほど悔やんだことはない。



まだまだ夜は長く、お邸を出て一条の安倍邸に向かう事は出来ないだろう。



お父様が此方に来てくださればいいのに……



そう思いながら、お父様宛ての式を作ろうとした時、急に呼吸が苦しくなる。



瘴気!?



─この地は神により護られし地、神の御加護、神の恩寵─



とっさに右手で五芒星を描く。



邸全体を、不可視の障壁が包み込む。



清浄な空気が器官に入り、やっと一息つく。先程入ってきてしまった瘴気で、少しでも霊力を持っている家人は気を失っただろう。



結界内を浄化させるため、両手を合わせ二回打つ。



─悪しきは退散し、聞こえるのは神の息吹き─



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