平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
お祖父様に許しを請い、日が昇り始めると共に安倍邸へと向かった。
もう二度と安倍邸に足を踏み入れることは無いと思っていたけれど…
まさか、この様な事で再び訪れることが出来ようとは…
こんな異常事態ではあるけれど、跳ねる心を抑える事が出来なかった。
お父様はアタシが来ること伝えていたので、簾子に出てアタシが来るのを待っていてくれた。
「久方ぶりにございます。」
「うむ、元気そうで何より。直ぐに本題に入る、中に入りなさい。」
挨拶もそこそこに、お父様の普段からの霊気で清浄化された塗籠に入る。
「何やら、今までに無い不穏な気を感じる。瘴気の根源付近には、明光(アキミツ)を向かわせた。」
「でも、兄上は中務省のお勤めがあるのでは?」
「なに、異変が起こって向かわせた。直ぐに戻ってくるだろうて。」
「成人したお主を闊歩させるのも、気が引けるのでな…」と渇いた笑い声を上げた。
「心にも無い事を…」と内心では思いつつも、先を促すように頷く。
「…原因は私にも掴めん。何か大きな気が、占いの邪魔をする。」
「父上でも…!?」
お父様の発言に、流石に驚愕する。お父様の天下と言われるこの時代に、お父様でも分からぬ様な事が…。
「何か分かりしだい連絡する。今回そなたが此処へ来た理由は、もう一つある。」
「…もう一つ?」
「本当は裳儀の時に、託したかったのだが…間に合わなかったのでな。」
「?」
お父様か何を言おうとしているのか、少しも理解できない。
お父様はパンッと手を叩き、懐かしい名を唱える。
「青龍、白虎、玄武、朱雀、貴人、勾陣、天后、太陰、騰蛇、天空、太裳、六合」