平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
音もなく、お父様の後ろに見慣れた影が現れる。
「…っ皆!!」
懐かしい姿に思わず歓声を上げる。
「お久しぶりです姫。」
皆、アタシに優しい笑顔を向けてくれている。勿論、先日再会したばかりの玄武も…。
お父様に「どうして?」という顔を向ける。
全く持って理解不能だ。
「父上、只今戻りました…って聖凪!?」
兄上が扉を開け、驚いた顔をしながら塗籠に入って来た。
「兄上、お久しぶりです。」
「おお、帰ったか明光。まぁ、座りなさい。」
お父様に促され、兄上がアタシの隣に腰を下ろしたところで、話しが再開する。
「この式神達は一人だけではない、性格は違えど他にも存在する。」
「と、言っても決して多い訳でも無いが…」
「一人だけではない?…それは?」
首を傾げるアタシに、今度は兄上が応える。
「こういう事だよ。…天空。」
兄上がその名を呼ぶと、お父様の後ろに控えている天空とは違う、全く別の式神が現れた。
「!?」
「安倍の一族では、強い霊力を持つ者…魂が強い光を放つ者に十二の神が遣えてきた。」
「勿論、俺にも十二神の仲間が居る。」と兄上はアタシを真っ直ぐに見ながら言った。
「そして、そなたとて例外ではない。我が十二の同志がそなたを、十二天将を従えるに価する者と認めたのだよ。」
お父様の真剣な言葉に十二天将頷き、アタシの前に移動してくる。
「私たちは姫、貴女を信じます。」
朱雀がそう言うと同時に、十二人皆が一斉にまばゆい程に輝きだした。
「!?」
余りの輝きに、思わずきつく目を閉じ腕を顔の前にかざす。
しばらくすると、その光は止み、今まで一度も聞いた事のない声に名を呼ばれた。
「聖凪。」