平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
恐る恐る目を開けると、お父様の十二天将たちは元のように後ろに下がっていて、アタシの前には初めて見る顔が十二人居た。
「貴方たちは…?」
アタシが問い掛けると、一番右に居た栗色の短い髪をした男髪が応えた。
「我らは姫に遣える為に生れてきた式神、姫に忠義をつくす者にございます。」
「ワタクシ…の?」
お父様や初めて見た兄上の式神達よりも、随分初々しく凜とした式神達が強く頷いた。
「聖凪、この子たちはアタシ達から生まれ、アタシ達の本質を受け継いでいるわ。貴女が意志を違えない限り、貴女の強力な力になる。」
お父様の式である玄武が諭す様に真剣で厳しく、そして優しい目をした。
玄武を見つめ返し、そして新たに生まれた式神達を見回す。
「……ワタクシは絶対に違えない。約束するわ!!」
この塗籠に居る皆に向けて、深く…それも床に額が着く程に頭を下げる。
「姫、これでそなたも正式に安倍家の陰陽師だ。」
「父上……はい、その名に恥じぬように精進いたします!!」
アタシはこれで、本当に大人として認められた気がした。
「それで明光、都の様子は?」
「はい、やはり薄い濃いはあれど、どこもかしこも瘴気で溢れていました。」
それはアタシも、此処へ来る途中にも強く感じた。空気が淀んでいて、何時もより息苦しさを感じる。
「根源は掴めましたが…その元凶の気配は感じられず、最も瘴気の濃い所だけは浄化して参りました。」
兄上は眉間に皺を寄せ、少し俯いた。
お父様も低く唸り、それきり沈黙を保っている。
三人で頭を悩ませていると、また扉が大きな音を立てて開き、二つの影が飛び込んできた。
「お父上っ!!姉上がいらしてらっしゃると聞いたのですがっ!!」
「本当ですか────」