平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
二条の御邸ではなんの苦労もないけれど、周りに女房や女童しか控えていなくて、なんだか物足りないのだ。
榊の言葉を遮り、膝を折りながら勝手に後を続ける。
「…っ」
「嬉しかった…よ?」
「あーっ!!桂だけ卑怯だ、姉上っ俺も嬉しかったんだよっ!?」
やはり、本当の姉弟は心が安らぐ。腰を曲げて二人をいっぺんに抱き締める。
驚いたのか、二人からははっきりとした言葉が返ってこない。
「あ、姉上?」
「何してっ…!?」
されるがままになっている二人を、更に強く抱き締める。
「……また、会いましょうね?」
二人の背中をトンッと軽く叩き、回していた腕を離す。
「母上と翡翠、聖にはワタクシが来たことは秘密ね?」
首を傾げながら、頷く二人の頭を一つ撫でてから、車の側に控えていた柊杞と共に車に乗り込み、安倍邸を後にした。
日が完全に昇り切った頃には、二条の自室に帰る事が出来た。
夜中にアタシが創った障壁は、しっかりと役目を果たしていた様で、邸内に入ると気分が軽くなった。
人払いをし、母屋にはアタシしか居なくなった。
…嫌、正確にはアタシと式神以外は、かしら。
対面したばかりの式神をもう一度呼び、詳しく話を聞く。
多分この状況を霊力も何もない、常人に見られたらアタシは凄く怪しい人間だろう。
だって、誰も居ない何もないところに向かって、一人でブツブツと呟いているのだから。
それにしても、アタシにも式神たちが就いてくれるとは思わなかった。
式神たちが十二人でなく、他にも存在すると知った時は驚いたけれど、それよりも…
本当に本当に嬉しかった。
お父様や式神たちから認められた事も。
新たに、「友」と呼べる者が出来た事も。