平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
同じ式神なのに、少しも似通ったものが感じられない。この十二人の内でも、生みの親となっている、お父様の式神たちとも。
顎に手をあて、「不思議だな」と考えていたら、部屋からいくつもの気配が消えた。
不思議に思い、顔を上げると、そこには朱雀と玄武だけしか姿が見えなかった。
「…みんなは?」
「何時までも、姫様の前に控えているのも、失礼かと思いましたので…皆、十二天将が在るべき処へ戻りました。」
アタシの質問に朱雀は、おっとりとした優しい口調で答えた。
「十二天将が在るべき処…」
十二天将が在るべき処とはいったいどういった処なのだろう?
天津神が座する高天ヶ原のような処なのだろうか?
───なんて、高天ヶ原にも実際に見た事も行った事も無いのに。高天ヶ原を想像しても、十二天将が在るべき処など分かる訳が無いが。
「貴女たちは、そこへ戻らなくても大丈夫なの?」
「主たる姫様を、お一人にするなんて…その様なことは出来ません。お邪魔かもしれませんが、ご辛抱下さいませ。」
頭を下げる朱雀とは逆に、玄武は辺りを見回す。
「…なんだか、寂しいわね。聖凪の他には誰も居ないの?」
「朱雀、顔を上げて?そんなに畏まらなくても、大丈夫よ。ワタクシたちは、もう他人では無いのだから。…仲良くしましょう。」
「姫様…」
顔を上げた朱雀と微笑み合うアタシに、声音が先程よりも幾らか下がった玄武が声をかける。
「聖凪?私の存在を忘れているのかしら?」
振り返ると、微笑んでいるのだけれど、冷たい感じがする玄武が口元に手を当て、アタシたちを見下ろしていた。