平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
綺麗な人が怒ると迫力が増す、なんてことを、玄武を見てしみじみと思う。
アタシが腹を立てても、子供が意気がっている、としか見てもらえないだろう。
「別に忘れてなんかいないわよ、玄武。だって、ワタクシには姉上が居ませんもの、姉上が出来たみたいで、とても嬉しいわ。」
わざとらしく、にっこりと笑って見せる。
「…」
見事なまでのアタシの作り笑いに、玄武が無言で歩み寄って来る。
「玄武?」
アタシが玄武の名前を口にした瞬間に、ガバッと力強く抱き締められた。
「聖凪!!私、貴女みたいな性格好きだわっ。なんだが、宜しくやっていけそうよ」
玄武は今度こそ、本当の笑みをアタシに向ける。
「あら、嬉しいわ。でも玄武?姉上が出来たみたいで嬉しい、と言うのは本当よ。」
「ふふ、ありがとう。」
アタシたちは笑い合った。
なんだかんだで、アタシは式神と巧くやっていけそうな気がする。
アタシの事を信じて、着いて来てくれる式神たちのためにも、道を違えずに頑張ろう。
──そう、本気で思えた。
穏やかな空気のアタシに、少し控えめに女房が声を掛けた。
「…姫様?」
いけない、物の怪か何かに取り付かれた…と思われたかもしれない。
「…あ、えっと、今のは…」
焦るアタシに、少し年嵩の女房が朗らかに言い放った。
「大丈夫ですよ、殿様や陰陽の頭から「姫は人外の物が見えるため、何も無い処へ話掛けたりするが、気にするでない」…と言われております。」
「頼りにしております」と女房に言われて、ふうっ…と、一息ついた。
少なくとも、此処で式神たちと話しても、頭がおかしくなった等と言われる心配は無いのだ。
「姫様、実は安倍の少内記が見えられています。御通ししても、よろしいでしょうか?」
「兄上が?」
アタシが安倍邸を出て、まだ二刻程しか経っていないのに…兄上は出仕していらっしゃらないのかしら。