平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



綺麗な人が怒ると迫力が増す、なんてことを、玄武を見てしみじみと思う。



アタシが腹を立てても、子供が意気がっている、としか見てもらえないだろう。



「別に忘れてなんかいないわよ、玄武。だって、ワタクシには姉上が居ませんもの、姉上が出来たみたいで、とても嬉しいわ。」



わざとらしく、にっこりと笑って見せる。



「…」



見事なまでのアタシの作り笑いに、玄武が無言で歩み寄って来る。



「玄武?」



アタシが玄武の名前を口にした瞬間に、ガバッと力強く抱き締められた。



「聖凪!!私、貴女みたいな性格好きだわっ。なんだが、宜しくやっていけそうよ」



玄武は今度こそ、本当の笑みをアタシに向ける。



「あら、嬉しいわ。でも玄武?姉上が出来たみたいで嬉しい、と言うのは本当よ。」



「ふふ、ありがとう。」



アタシたちは笑い合った。



なんだかんだで、アタシは式神と巧くやっていけそうな気がする。



アタシの事を信じて、着いて来てくれる式神たちのためにも、道を違えずに頑張ろう。



──そう、本気で思えた。



穏やかな空気のアタシに、少し控えめに女房が声を掛けた。



「…姫様?」



いけない、物の怪か何かに取り付かれた…と思われたかもしれない。



「…あ、えっと、今のは…」



焦るアタシに、少し年嵩の女房が朗らかに言い放った。



「大丈夫ですよ、殿様や陰陽の頭から「姫は人外の物が見えるため、何も無い処へ話掛けたりするが、気にするでない」…と言われております。」



「頼りにしております」と女房に言われて、ふうっ…と、一息ついた。



少なくとも、此処で式神たちと話しても、頭がおかしくなった等と言われる心配は無いのだ。



「姫様、実は安倍の少内記が見えられています。御通ししても、よろしいでしょうか?」



「兄上が?」



アタシが安倍邸を出て、まだ二刻程しか経っていないのに…兄上は出仕していらっしゃらないのかしら。



< 61 / 241 >

この作品をシェア

pagetop