平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
お昼過ぎには、麗景殿の女御様が宮中にお帰りになると聞き、挨拶をしに伺った時にこっそりと魔除けの呪いを唱えた。
そして、その騒ぎに乗じていつめの自分そっくりな式を対屋に残し、二条の邸を抜け出した。
まだ日が高いので、しっかりと被衣をかぶり、そばに控えている玄武と朱雀の二人を連れて、鞍馬へ向かう。
きっと今回の事件は、以前より自由の効かなくなったアタシだけでは解決出来ないはず。
「……やはり、空気が重い。」
右京の方へ向かいながら、思った事をぽつりと呟く。
「はい、これ以上事態が悪化するようでしたら、晴明様が手を打たれるかと。」
はぁ……
アタシはまだまだ未熟だ。都がこんなに大変な時に、自分のお邸を護ることが精一杯で、都を護ることが出来ないのだから。
もっと強くなりたい。
すべての人を護れるくらいの力が欲しい───
拳をギュッと、強く握り締めた。
「聖凪、鞍馬まで歩いて行く気なの?まさか…」
玄武が眉をひそめ、「貴女、おかしいんじゃないの?」という位にアタシを見る。
「馬鹿ね、そんな間抜けみたいな事をワタクシがする訳ないじゃないの。馬に乗るのよっ!!」
「「うま?」」
玄武と朱雀が声を揃える。
「そう、都外れの集落の一画に、以前ワタクシが助けた事のある老夫婦が暮しているの。」
そこのお爺さんに、「いつでも好きな時に馬を使っていい」と言われていたのだ。
普通の貴族の姫ならば、馬を扱う事なんか出来ないだろうが……
なんたってアタシは、お転婆で跳ね返りの、安倍晴明の娘なのだから!!
ふぅ…
少し高い位置から、呆れた様な色っぽいため息が聞こえた。
後ろを振り返ると、玄武がやれやれと言う風に髪を触り、それを見て朱雀が苦笑いをしている。
「?」
「聖凪ぁ、私たちは式神よ?」
玄武は軽くそう言うと、自分の腕をアタシの腰に回した。
「…え?」