平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
宵の笑顔を見てか、朱雀と玄武はようやく緊張の糸を解く。
宵の後ろに控えている、護衛のものがお面を外す。
物語や絵巻物では、天狗は鼻の長い妖怪とされているが、それは全くのでたらめだ。
方膝を地面につけ、臣下の形をとる四人の八咫烏。
「安倍の姫、何故此処へ来た。」
宵に仕える天狗達は、本当に無愛想で真面目で、そして宵の事を一番に考える。
「今日は、少しお願いがあって参りましたの。」
式神たちにも、何も話していなかったので、七人の不思議そうな顔がアタシに向けられる。
「宵、貴女たち鞍馬の者も、都の事には気が付いているでしょう?」
宵がコクンと頷く。
「だけれど、ワタクシだけでは事態を収拾する事が、出来なくなってしまいました。……だから、お願いします。力をお貸し下さい。」
膝をつき、深く頭を下げる。
本当はアタシも、自分の力でなんとかしたい。だけど、自分が未熟なのに合わせて、身分まで高くなり自由に動けない。
「……無理だ。我々は都には一切干渉しない、と安倍晴明にも言っている。」
頭を下げるアタシに、残酷な言葉が降ってくる。
「我々には我々の、人間には人間の生活がある。……都の事は、お前達人間でどうにかするんだな。」
八咫烏の台詞に、グッと唇を強く噛む。確かに、その通りだ。
アタシの後ろでは、やっと臨戦体制を解いた二人が、また警戒…いや、もはや闘気をむき出しにしている。
「都に手を出さない代わりに、都に干渉しない、と言う事は重々承知しております。……ですがっ」
パッと顔を上げると、目の前には宵がアタシの前に膝をつき、膝立ちしていた。
「…よい?」
「分かりました。我々が協力しましょう。」