平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
宵が、銀色とも言える白い短い髪を揺らして優しく微笑む。
「宵…宵、本当にありがとうございます。」
もう一度、深く深く頭を下げる。
「はい、おしまい!!宵は堅苦しいの苦手って、知ってるでしょう!?それに、聖凪と宵は友達でしょ。」
見た目はアタシよりも幼いのに、しっかりとしている。きっと、宵は良い鞍馬天狗の当主になるだろう。
アタシも負けていられませんね。
「宵、ありがとう。」
宵の手を、両手で強く握り締める。「ありがとう」と言う気持ちを、たくさん込めて。
「っ宵様!?その様なことを、大天狗様に通さずに決めてしまわれて大丈夫なのですかっ!?」
宵の、温かく快い返事に、天狗達は案の定騒ぎだす。
それなのに、一番若いはずの宵はとても落ち着いていて、興奮している天狗達を宥めている。
それを何気なく眺めていたら、後ろから悔しそうな声が聞こえてきた。
「姫を軽々しく扱うなんて、私許せません。頭まで下げられましたのに…なんて冷酷な…」
珍しく腹を立てる朱雀と、これまた珍しく、宥める側になっている玄武に軽く目を見開いた。
「聖凪、髪が地面についているわよ。洗うのは一苦労なんだから、気を付けなさい。」
玄武は、そう言ってアタシを立ち上がらせ、髪に付いた落ち葉を払ってくれた。
「ありがとう」とだけ言い、宵達の話が終わるのを待つ。
暫くすると、護衛をしている天狗が一人、バサバサと大きな音を立てて飛び立って行った。
空を見上げると、少しずつ日が西に落ちていっていた。
「ごめんなさい、待たせちゃって。聖凪、私たちは何をすればいいの?」
宵がパッと振り返り、明るく元気に聞いてくる。
「実は…東宮に入内する事になってしまって…。それで、前の様には自由に動く事が出来なくなってしまったのです。」
「凄いわ、聖凪!!じゃあ、天皇家には天照大御神に加えて、狐の血も入るのね!!」