平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
昼間に、柊杞にこってりと絞られて、夕食まで御帳台の中に縮こまっていた───
と、女房達は思っているだろうが、それは違うのです!!
今までは、お父様の倉に籠もっていたのだか、今はそれが出来ないので代わりに御帳台だ。
しかし、安倍邸よりも資料が極端に少ない。アタシに教えてくれる人もいない。
「…太陰」
何となく、思い浮かんだ式神の一人の名前を呼ぶ。
「はっ」
音もなく、アタシの前に姿を現し、方膝を床に付ける。
「あのね、お願いしたいことがあるのだけれど、頼んでもいいかしら?」
「この様な事をお願いするのは、本当は気が引けるのたけど…安倍邸に行き、お父様の書物を取ってきてほしいの。」
首を傾けると、太陰は少し驚いていたけど、直ぐに和かな笑顔で「承知しました」と言ってくれた。
「ありがとう」と言うと、太陰は直ぐに夜の帳が下り始めた都の空へと、飛び立って行った。
ふと、お祖父様が頭に浮かぶ。
「そうだわっ!!」
立ち上がり、少しボサボサになった髪を櫛で整える。
「少将、お祖父様は帰って来られた?」
側近くで他の女房と雑談していた少将の君に声をかける。
「では、寢殿の殿付きの女房に聞いて見ますので、少しお待ちを。」
少将の君は、そう言って頭を下げ西対を出て行った。
自邸に籠もっている、女子供は、なかなか政治的噂が入ってこないのが困りものだ。
少しして少将の君は戻ってきた。
「姫様、殿は先程戻られたそうです。」
「そう、良かったわ。では、今からお祖父様の所へ行っても大丈夫かしら?」
「はい、そうお伝えしたところ、殿の方から此方へ来てくださる、とおっしゃられました。」
「少ししたら、参られるそうです」と言い、少将の君や他の女房たちは周りを片付け始めた。