平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「はい、本当に助かりました。ありがとうございます。」
にっこりと笑顔を向けると、お祖父様も満足したようで、「そうか、そうか」と頷いていた。
それから暫く、お祖父様とたわいもない話をした。
「そうだ、姫。明晩は、お祝いの宴を行おうとおもっている。少し五月蝿くなるだろうが、ご了承いただけるかな?」
「宴で、ございますか。ええ大丈夫でせ、どうぞお気になさらずに。」
「では、ゆっくり休みなさい。」
と、最後に言い、お祖父様は部屋を出ていった。
しかし、少し遠くでお祖父様の声が直ぐに聞こえた。
「入内する事は、何方も承知しているだろうから、間違えは起こらないだろう。…しかし、気を引き締めておきなさい。」
お祖父様の真剣な話に「はい」と答える柊杞の声もする。
明日、もしも変な気を起こして、この西対を訪ねる者がいた場合の話なのだろう。
はぁ…
ため息をつくアタシに、右近の君が声をかける。
「如何しましたか?」
「いいえ、何でもないの。」
ただ、こんな非常時に宴を行う事が嫌なだけだ。お祖父様が嫌いな訳でも、常人には都の異変に気付けない、と言う事も分かる。
だけど、やっぱり不謹慎だと思ってしまうのだ。
部屋に戻ってきた柊杞が「明日は、光明様もいらっしゃるそうですよ」と、機嫌よくアタシに報告した。
文机に向かい、灯台の灯りで地図を開く。
…三条の参議邸───っと。
確か、この辺りと思うところに筆で標をつける。