平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「玉鬘の姫君も、大変美しくなられて…東宮の御寵愛も、並外れましょうね。」
と、四の君はクスクスと笑った。
しかし、アタシは四の君が言った言葉の中に、一つ疑問を覚えた。
「玉鬘?」
玉鬘とは、ある物語の中に出てくる姫の通り名のはずだ。
「あら、ご存じなかったの?お祖父様の養子として引き取られ、幸運にも入内する事にもなった美しい姫を、世間は物語に準えて、玉鬘の姫君と呼んでいるのよ。」
…知らなかった。まさか、自分がそのように呼ばれているなんて…
アタシは物語の姫のように、素晴らしくも何ともない。
「ところで、今日はどんなご用でしょう?」
「まぁ、そのように他人行儀で。何の理由もございませんわ、宮中に入れば滅多にお会いすることは出来ませんもの。」
いつも、そうだ。四の君は実の妹のように、アタシに接してくれる。
いつも、アタシに気をかけてくれる四の君。だけど、少しやつれているのはどうしてだろう?
「それに、今宵は此方で宴があるでしょう?父上もいらっしゃるし、私だけ先に参りましたの。」
そうやって、近況を話ているうちに、空もだんだんと暗くなってきた。
チラチラと、客人もいらっしゃったようで、アタシの周りにも女房が増えてきた。
先程の女房が、ジッと意味ありげに此方を見ていたので、苦笑いを持って返す。
「姫様、明光殿がお越しにございます。」
「兄上が?」
チラリと、四の君を見て、兄上の来訪を告げた女房に指示を出す。