平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「申し訳ございません。少しの間、席を外させてください。」
と、だけ告げ、人気の少ない廂に向かう。
「兄上、突然どうしたのですか?───六合!?」
驚くアタシに、兄上は呆れた顔をする。
アタシが来ると六合は、兄上の後ろからスッとアタシの後ろに居場所を変えた。
「お前なぁ…もう少し、式神がなんなのかを考えて、ものを頼めよ。」
安倍邸に居た時のように、アタシに接する兄上に、兄上の物言いが聞こえたらしい柊杞が、コホンッと咳払いをする。
「ごめんなさい、どうしても知りたかったので…六合も、ご苦労様。」
「いえ、聖凪様のお役に立てて、光栄です。」
聞くところによると、職務中に鉢合わせた兄上に訳を聞かれ、帰宅を一緒にしたらしい。
ついでに、今は先頃の事件の解決のために、今宵の宴に参加出来ない、お父様の代理も兼ねているらしいが。
今度は公用に改めて、兄上が口を開く。
「ところで…私が以前此方へ参った時より、結界の効力が弱まっているようですが?」
「やはり兄上も、そう思いますか?…日が傾きかけたあたりから、どんどん弱まっているのです。」
そう、ちょうど四の君がいらっしゃった辺りから、邸内の空気が清浄とは言えぬものになってきている。
原因は未だ分かっていない。
「結界の方は、私がもう一度組み直してみます。姫も、今宵は人の往来が多いでしょうから、十分お気を付けください。」
「人の往来と言えば、四の君様がいらっしゃっているの。兄上もお話なさいますか?」
そう、アタシが言うと、兄上の顔が微かだが険しくなる。
「…四の君が?」
「…ええ」
「嫌、結構。ではまた、宴の後にでも伺います。」
兄上はそれだけ言うと、西対を後にした。
一体どうしたのだろうか?