平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
四の君の元に戻り、女房たちが用意してくれた夕食を一緒にとる。
ちなみに、今日の夕食は少し豪華だ。宴の食事を此方にも回してくれたらしい。
食べおわる頃には、日も落ちきり、寢殿では宴も始まっているようで、微かに賑あう声が聞こえてきた。
「ねぇ、大君様。知っていますか?」
食事を終えて寛いでいると、不意に四の君が口を開いた。
しかし、いつもの四の君の優しい口調ではなく、とても冷たいそれだった。
「…何がです?」
「お祖父様の養子候補が、二人居たと言う事です。」
二人?アタシ以外にも、お祖父様が子供にしたい、と思える方が居たと言う事だろうか?
顔を横に振ると、四の君はフッと笑った。
「でしょうね。わざわざ養子にと決まった子に、話す必要も無いもの。」
「…四の君様?」
俯き加減になっていた四の君の顔を覗き込と、いつもの美しい風貌ではなく、憎しみに満ち溢れた顔でキッと睨まれた。
「!?」
「貴女は幸せで良いわよね。そこそこの身分から、いきなり大臣の姫君ですもの。そして今度は、未来の帝の妻。」
周りの女房たちも、ざわざわとしはじめた。
「中将の君、今すぐ皆を下がらせなさい。」
「姫様、しかし…」
躊躇う柊杞にもう一度、言い聞かせる。
「今すぐ、下がらせなさい。」
柊杞は少しの間、どうすべきか迷っていたようだったが、一つ頷くと母屋から女房たちと一緒に出ていった。