平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「四の君様、何か言いたい事がおありなのですね?」
玄武に兄上を連れてくるように目配せをする。
「ええ、もう一人の候補は私だったんですもの。」
───お祖父様が、孫たちを養子にするに充たっての条件。
それは、成人していること、未婚の女子であること、見栄えが美しいこと。
そして、純潔であることが条件だったのよ。
たくさんいる孫たちの中で、この条件を全て満たしているのは、私たち二人だけだったわ。
そして、身分からして私が選ばれるはずだった…
なのに、貴女が選ばれた。
何故だか分かる?
私は、よく知りもしない男に純潔を奪われたのよ!!
私は何も解らずに、今置かれている状況を悲しむしか出来なかった。
右大弁の姫として、大事に育てられてきた私にとっては、屈辱でしかなかったわ。
父上は何も知らされて無かったとはいえ、私のされてしまった事に対し、落胆され見損なわれてしまったのよ。
…父上にとっては、私が四人目の姫だったから。姉上たちより、良い条件の結婚は無いと思っていた。
そんな中やってきた好機を、私は自分の意志では無いといえ、逃してしまったの。
そればかりか、私はその男の側室として、過ごさなければならないかもしれないの。
この私がそんな最低な人間の、妾となるのよ?
あまりにも、惨めだわ…
憎むべき相手に純潔を奪われ、父上には見捨てられた私の気持ちが貴女に分かる?
年下で、今や大臣の姫となった貴女にっ!!
────
寢殿の方から悲鳴が聞こえる。
一瞬、ほんの少しの間気を其方に捕られた。しかし、その少しの間に四の君の髪が、ぶわりと広がる。
「っ!?」
「聖凪っ!!」
パキンッと音を立てて、結界が破れる。