平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
灯りという灯りが全て消え、暗闇に包まれる。
「私はね、自分に定められた道を歩く気は無いの。…一人で逝くのも惨めだから───貴女を殺してから、行こうと思ったの。」
逝くとは、何処へ?
「でも───貴女は、そこの鬼に守られている様だから、私では無理の様ね。」
スーっと、四の君の目が本当なら見えない筈の玄武を、的確に捕えた。
「四の君様っ!!」
叫ぶアタシを一瞥し、邸を出ていこうとアタシに背を向け歩きだす。
「何が、何が貴女をそうまでしたんですっ!?」
呼び止めようと、もう一度声を上げたアタシの身体は、ギンッと真っ直ぐに睨む四の君によって、硬直してしまった。
「…」
声までは聴こえないが、四の君の口が動いているのが見える。
四の君は顔だけを、もう一度此方に向けると、人間の表情とは思えない顔で、ニィッと歯を見せて笑った。
そのまま、片手を振りかざし、邸から四の君は唐突に姿を消した。
危険な置き土産を残して…
「聖凪っ、危ないっ!!」
四の君が振りかざしたモノが、黒いモノを含んだ鎌鼬となり、アタシに襲い掛かる。
間に合わな────
刹那、耳の奥底で水が跳ねる音が聞こえた。
次の瞬間には、鎌鼬は消え、水気を含んだ空気に、辺り一帯が包まれていた。
「何をしているの、気を抜く暇なんか無いわよっ!!」
「…今のは玄武が?」
玄武に叱咤され、その場におずおずと立ち上がる。
黙ったままの玄武に、肯定と受け取り、そのまま「ありがとう」とお礼を言う。