平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



「太裳がまだ帰ってこないわね、そろそろ私たちも向かった方がいいかしら?」



玄武が寢殿の方を見つめながら、眉をしかめる。確かにまがまがしい気を、寢殿の方から感じる。



しかし、



「っでも、四の君様がっ!!」



姿を消した、四の君の方はどうすれば良いのだ?



「四の君様はっ!!ワタクシにとって、姉上の様な存在なのっ!!見捨てるなんて、出来ないわっ!!」



玄武の召し物の袖を掴み、「四の君様をっ!!」と訴える。



「玄武っ!!」



縋る様に玄武を見上げると、玄武の顔が一層険しくなり、同時にアタシの頬が、まるで針にでも刺された様に傷んだ。



「しっかりなさいっ!!今、貴女ががむしゃらに探したって、なんの情報も得られないの。まずは、目先にある事を片付けないで、どうするのっ!!」



凄い剣幕で怒鳴る玄武を、熱くなった頬を押さえながら、呆然と見つめる。



暫しの沈黙の後、また玄武から手が伸びてきたため、反射的に身を固くする。



しかし、予想に反して痛みは来ず。代わりに冷たい手が、アタシの頬に優しく触れた。



「…聖凪、しっかりして?貴女が都を護るのでしょう?」



「げん、ぶ…」



アタシが、そう呟くと玄武が「うん」と頷いた。まるで、




──大丈夫だから




と、言っているみたいに。



瞼を閉じて、速くなっている鼓動を落ち着ける。



「──わかりました。行きましょう。」



瞼を開け、しっかりと玄武を見つめ返すと、玄武はやっと微笑んで「ええ」と頷いた。



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