平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



男は大きなことを言っていたけれど、自分の力量くらい分かって貰いたい。



鬼に力を借りてこの程度の奴にやられる程、アタシも兄上も柔じゃない。安倍一族をあまり舐めて貰っては困る。



「俺は聖凪みたいに、手荒な真似はしたくないからね。」



そう言って場違いにも笑う兄上を、キッと睨む。それに手荒な真似とは何かしら?アタシがいつ、その様な真似したと言うのかしらっ!!



「…だから、全部綺麗に吐いてくれないかな?」



胡散臭い爽やかな笑みを見せる兄上に、思わず眉間の皺が濃くなる。



そんなに簡単に全てを吐く位なら、最初からこんな事を企て様とは思わないだろう。



それに兄上はそれを、ちゃんと分かっている。その上で、こんな事を聞くのだ。兄上は本当に、性格が曲がっている。



「貴方は馬鹿か?どうして、この私が貴様の様な七光りに全てを話さなければならないのだ?ましてや、殺すつもりの奴にっ。」



それだけ吐き捨て、男は寢殿に響き渡る大きさで笑う。



男の言葉通り、アタシたちは馬鹿にされているとしか、言い様が無い。



いい加減、自分が置かれている立場を理解して欲しい。



───そして、アタシたちを舐めるのも、いい加減にした方がいい。



「全く、強情だね。」



兄上が呆れたように、やれやれと首を横に振り、右手で印を結ぶ。



─傀儡曝出─



男がうなだれたように首を下げると、兄上が男の頭に自分の左手を乗せた。



こうなったらまず、兄上に逆らえる者はほとんどいないだろう。兄上は本当に、性格が得意分野に現れている。



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