平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「…あの、姫」
声がした方へと乱暴に振り返ると、それは眉を少し下げて苦笑いをしている六合だった。
そのまま、促すように視線を向ける。
「その者は、陰陽寮の人間なのです。」
「…陰陽寮、の?」
六合の言葉に流石に驚いき、目をみはる。
そんなアタシにひとつ頷き、六合は先を続ける。
「はい、姫の御命令通りに、今日一日陰陽寮に居りましたが、その者は既に不穏な気配を醸し出しておりました。」
淡々と話す六合に、兄上は視界の隅でわざとらしく頷いているのに、少し苛立ちながら、六合に疑問をぶつける。
「でも、六合?兄上にも言った様に、それだけでは元凶が大妖だという証拠にならないのよ?」
アタシが、兄上にもそうした様に六合も追い詰めると、六合が右手で頭を掻きながら笑った。
「確かにそうですが、それは明光殿の゙勘゙…でしょう。」
勘…それは力のある陰陽師ならば、何より頼りになるモノだが…。
「では、陰陽寮で兄上と父上は何をしていらしたんですか?」
「此奴の存在には、気付いていたのでしょう?」と、またもやため息が出る。
アタシがそう言うと、兄上は明後日の方を向き、六合は無言で笑っていた。
「はぁ…」
父上と兄上の事だ、容易に寮内での二人の会話を想像出来る。
(本当にどうしたものかのう。かの大妖の手先が寮内に居るなど、混乱を招く様な事は出来ないなあ。)
(そうですね、少し様子を見る事にしましょう、父上。)
(そうだなぁ、はははは…)
おおよそ、こんな風に悠長に構えていたに違いない。
面倒くさがりの父上と兄上がしそうな事だ。