平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
父上と兄上の事で頭を抱えるのも、もうそろそろ終わりにしたいものだ。
今の兄上と六合の説明を踏まえて、もう一度頭の中身を整理し直す。
天将達が黙って見守るなか、アタシは手を口元に持っていき、考える。
──瘴気の出現、
病に倒れた、都人達
都に現れた六芒星
大妖九尾の力を借りたであろう、陰陽師
……そして、消えた四の君
「…」
…そういえば、四の君の乳母の姿が今日は見えなかった。いつもは、四の君の側に母親の様に付き添っているのに…。
「…これからどうするか、決まったかしら?」
アタシの僅かな変化に気付いたのか、玄武が色っぽい笑みを浮かべる。
「ええ、…兄上は勿論ワタクシに付き合って、くださいますわよね?」
異を唱えさせない様に、わざとらしい満面の笑みを顔に乗せる。
すると意外にも、兄上は優しい面持ちになって微笑んだ。
「こんな時くらい、兄を信用しておくれよ。実の妹を危険と判っている事に、一人で向わせるほど、酷い兄ではないよ」
最後に「…それに、入内前の姫君に傷は付けられないからね」と付け足し、六合と荒れた寢殿を片付け始めた。
兄の意外な優しさに軽く目を見張ったが、アタシは自分に出来る事をしよう。
未だ、拘束され頭を下げている陰陽寮の男の元へ行き、腰を下ろす。
……この男の中から、九尾と思われる妖の記憶や今日の出来事を消さなければならない。
それに──
「…ワタクシの顔も見られてしまったのだから。」
覚えられていては、本当に困る。
一つ息を深く吸い込み、印を結ぶ。
─心残忘却─