平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
これできっと、全てを忘れるはずだ。
「……後の客人方は、目が覚めたら何とかなるでしょう。」
そのあたりの事は、兄上も滞りなく穏便に済ませたであろう。
「さ、兄上?行きますよ!!」
兄上の片付けが大方終わったところで、単衣を上げて歩ける格好にしながら声をかける。
そんなアタシに兄上が、目を伏せながら信用なさげに、こちらへ向き直る。
「俺には大口を叩いていたが、四の君の居場所はわかっているのか?」
「まだ判りません。」
きっぱりと答えたアタシに、兄上はすっとんきょうな声を出す。
「はぁ?」
アタシは、更に何かを言おうとしている兄上を遮り、先に言葉を発する。
「…ですがっ。四の君様のお邸に行けば、きっと何か手掛かりがあると思います。」
兄上は「まぁ、それはそうだろうが…」とぼやきながら、何やら考えているようだ。
しかし…
「兄上、考えている暇などございませんよ!!」
早く四の君の居場所を突き止めなければならない。
最悪の状態を想像して、思わず拳に力を込める。
お願いだから、無事で居て欲しい。
出来るだけ心を落ち着かせ、焦って間違った方法を取らないように、気をつける。
そうしたからかは分からないが、兄上も少し考えてから頷いてくれた。
「行こう。」
兄上と天将達と一緒に、二条の邸を後にし、駆ける様にしながら四の君の邸である、東京極のお邸へ向かう。
こんな夜も更けた時刻に、車も無しにアタシが訪ねたとなると、驚かれるだろうが、今は事を急ぐ、そんな事を気にしている場合ではない。