平安異聞録-お姫様も楽じゃない-



目的の場所に近づくに連れ、脈打つ力が強くなっていく。



──四の君、どうか間違えを起こさないでっ…



そうしている間に、目的の場所に到着し、六合が足を止める。



「…姫、此処は?」



アタシを降ろしながら、六合が問うてくる。



六合に「ありがとう」と言い、目的の屋敷に目を据える。



「…此処は四の君が最も怨みを寄せる者の邸。」



アタシがそう言うと、調度見計らっていたように、邸の中から悲鳴が上がる。



「…高納実和の邸。兄上」



天将に腕を引かれて、普通の人間にはあり得ない速度で遣ってきた兄上を、顔を見ずに呼ぶ。



兄上は「心得た」とでも言うように一つ頷き、閉じられている門を叩く。



兄上は陰陽寮の人間では無い、この様な事態…ましてはこんな夜更けに訪れるのは迷惑極まり無いだろう。



それに、女連れ。



普通は追い返されるだろうが、兄上は大陰陽師安倍晴明の長子なのだ。



突然の事態に、家人は稿をもすがる思いで二人を邸へと通した。



「聖凪…」



玄武の声音に、剣呑なものが交じる。



そんな玄武に、静かに頷き、問題の対屋に歩みを進める。



───この邸に溢れている気は、先刻四の君が二条の邸で放ったものと一緒だ。



ここでもし、四の君が高納実和を殺してしまったら、四の君は今度こそ元には戻れないだろう。



そうなる前に、なんとしてでも止めなければならない。



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