平安異聞録-お姫様も楽じゃない-
「聖凪っ!!俺が四の君の動きを止める…その間に払ってしまえ!!」
相手が相手だけに、俺も長くは続かないだろう。と、兄上が諦めた様に笑う。
笑いながらも、珍しいほど真剣な兄上の姿から、やはり余程の相手だと言う事が分かる。
兄上が四の君を止めているうちに、アタシも遣るべき事を終えなければ。
兄上に見えない何かで拘束されている四の君の前に、回り込む。
四の君は動けないもどかしさからか、怒りが表面に出てきている。
「おのれぇーっ!!」
怒り任せの妖気が爆発し、四の君の長い髪が翻る。
右手で印を結び、呼吸を整える。
術に必要なのは、霊力に技術。
そして、一番大事なものは想い。
四の君を助けたい、という想いが一番力になる。
閉じた瞼を開け、四の君を正面から真っ直ぐに見つめる。
「…四の君様」
─傀儡の戒めを解き、在るべき姿を現せ─
「──っぁあ"っ」
四の君が苦悶に顔を歪め、言葉にならない叫びを上げる。
「っく…」
強い…。
負の念が四の君の心の奥底まで、入り込んでいる。
それだけ、傷ついていたのだ。
誤解から起こった、この出来事は四の君をそれだけ傷つけた。
世間体、父親から見捨てられた悲しみ…そして何より、その事を自分自身が一番恥じた。
未だに四の君は、声にならない叫びを上げ苦しんでいる。
「聖凪っ!!」
そろそろ兄上も限界が近いか…。
横目で見た兄上の表情も、険しく成っている。