そこはかな秘密
コツコツと歩み寄ってくる足音がする。明かりはつけていないので、泣きはらした顔もごまかせるかもしれない……けれど……
椅子に座ったあたしの前に、整った顔が近づいてふっと笑みをこぼす。
「嘘下手なんですね」
涙の跡が残る頬に手をかけて、そのまま顔をあげられて、見つめられる。泣きはらした顔を見られることに恥ずかしさはあるものの、間近で見た整った顔にドキリとする。
さらりとした癖のない黒髪に、シルバーフレームの眼鏡が高い鼻の上にかかっている。ゆるく持ちあがった唇は、程よい厚みで色気があった。
「あなたは私を知らないのかもしれませんが、私はあなたを知っています」
間近で見たイケメンに、いったいどこで会ったというのだろう?これだけのイケメンだったら、絶対に忘れないはずなのに。
「ごめんなさい…どこで会ったのか記憶にないのですが……」
「あなたは会ったことに気づいてませんよ」
ふっと楽しそうな笑みが浮く。