そこはかな秘密
秘密
彼は私のことをよく知っていたし、聞きたがった。彼の切なそうな告白に動揺していて、名前を聞き出すことすら忘れていた自分ってなんなんだろう。
帰り道の自分にこんこんと説経してやりたい。
名前もしらない人に、キスを許してしまうなんていけません!
ただ、突然のことだったのに嫌ではなかった……そう、嫌じゃなかったんだ。
帰り道で女の子連れの彼氏に振られて落ち込んでいたのに、土日の間は思い出すこともないほど夜のオフィスでのことで頭がいっぱいだった。
なんで、なんで名前をきかなかったの?
でもあれだけのイケメンが社内で噂にならないわけがないので、そのあたりから聞いていきたい。
「ねえねえ社内イチのイケメンて誰かなあ」
噂大好きな猪野ちゃんに聞いてみる。ぴくりと片眉をあげた彼女は、珍しいですねと驚きながらも教えてくれた。
「まずは営業の佐田さんでしょうか。年下ワンコ系イケメン」