我那覇くんの恋と青春物語~桜沢紗希編~
「私・・・駄目だね」


窓の景色を見ながら口を開く。



近づきたい。



けれども、近づけずにその場に立ち尽くすことしかできなかった。


「本当に駄目・・・電話であなたの声聞いただけで、こうして会いたくなっちゃう」


こちらを振り向かないのは、もしかして泣いているのだろうか。

そう思うくらい、彼女の声はか弱く聞こえた。


「いや、会おうって言ったのは俺からだし、さくらさんは悪くないよ。それに、駄目なかじゃ・・・」


「なんてね」


振り向いた彼女に涙はなかった。



けれど



その表情は、何かを隠すための表情ではないかと思った。


「傍にいられなくても、心が通じ合える・・・そう思うようにしたもん」


隠している『何か』というものは、分かりきっている。

しかし、分かっていても口に出してはいけない。

その表情は、そのことも伝えているような気がした。


「ねえ?あなたには夢とかってある」


彼女はある席の椅子に座った。



窓際から二列目、後ろから二番目の席。



その席は、彼女が転校する前に座っていた席だった。



それを見て、迷わずに窓際の隣の席へと座る。



自分があのとき、授業中にどの席に座っていたか覚えていない。

しかし、休み時間や昼休み、放課後・・・

こうして、毎日のように二人で話していた。
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