我那覇くんの恋と青春物語~桜沢紗希編~
静かな部屋に玄関の呼び鈴が鳴り響き、約束の一時間が経ってしまった。


「もう・・・行かなきゃ」


「えっ・・・そ、そんな」


「ごめんなさい・・・でも、もう行くね」


彼女は涙を拭い、ゆっくりと立ち上がった。



こちらを見つめる仕草が、まるで忘れないように目に焼きつけている気がして、胸の辺りが痛くなる。


「じゃあ・・・送るよ」


そうは言っても、姫希さんは玄関先にいる。

そんなことは分かりきっていることだが、こうすることしかできなかった。


「・・・ありがとう」


部屋から玄関まではすぐに着き、彼女はこちらを振り向いた。



涙目だが、笑顔。



笑顔だが、泣いている。



そんな彼女の手すら握れない自分がいる。


「じゃあ・・・ばいばい」


こうして、彼女は行ってしまった。



聞けなかった。



「また、会えるか」なんて、聞けなかった。
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