上司の笑顔を見る方法。
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私は彼の柔らかい唇の虜だ。
でも触れる以上のことを求めることはなく、ただ触れて、その柔らかさを感じるだけ。
彼の唇から離れると、ふと目が合った。
私の目に映るのは、彼の、笑顔。
「櫻井(さくらい)、気をつけて帰れよ」
「……はい」
私たちはただの上司と部下。
でも……私たちは人のいない夜のオフィスでキスをする。
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私は様々な企業のHPやwebコンテンツの作成、管理をはじめとするWeb関連の会社“webby”で働いている。
webbyは全社員30名程度のまだまだ若い会社で、会社を構成するのは社長室の他に、営業部、開発部、総務部の3部署。
私は開発部に所属していて、開発部はHP作成などの依頼を受けると複数人でチームを組み、依頼者との打ち合わせから開発までを行う部署だ。
「櫻井。ゆずさき製薬のトップページのインターフェースはどうなってる?」
「あ、ちょうど相談しようと思ってたところで。依頼通りだと見にくい気がして……。依頼分はおおよそできて時間に少し余裕があるので、改善案としてもう1パターン作ろうと思うんですけど」
「どれ」
直属の上司である藤谷(ふじたに)さんが私のデスクに歩み寄ってきて、骨張った男らしさ抜群の手をデスクの上に置き、ディスプレイを覗き込む。
整った顔が近距離に現れて、私の心臓がドキッと音をたてた。
……藤谷さんは誰もが認めるイケメンだ。
にも関わらず、無愛想で有名で、とにかく笑わないし無駄なことは一切喋らない。
そんな藤谷さんがリーダーを務めるチームのメンバーの一員として、私が仕事をするようになったのは1年ほど前のこと。
チームとは言っても、今現在、藤谷さんの下には私しかついていないんだけど。
最初はやっぱり、無愛想な藤谷さんのことを何となく怖いと思っていて不安もあったけど、すぐにその不安はなくなった。
それは藤谷さんが、プログラミングを始めとする仕事に必要な知識や情報を豊富に持つ、面倒見のいいデキル上司だとわかったから。
質問をすれば無愛想ながらもわかりやすく答えてくれて、仕事をする上でとても心強い存在になったのだ。
私が藤谷さんのことを信頼するまでに、そう長い時間はかからなかった。
私が改善案に関して説明し終えると、藤谷さんは唸った。
「櫻井の意見にも一理あるな。今週中にできるか?」
あらかじめ頭の中で組み立てておいた対応方法を思い浮かべ、私は頷く。
「はい。何とかできると思います」
「わかった。問題が出たらすぐ言って」
「了解しました」
藤谷さんは笑顔ひとつ見せず、自分のデスクに戻っていく。
この態度が不機嫌さを表していないことも、一緒に仕事をするうちに少しずつ知っていったこと。
それに……ある日を境に、藤谷さんを見る目が大きく変わったんだ。
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