ロールキャベツは好きですか?
唇を噛みしめる。
「かなわないなぁ。田島くんには」
「何年、主任のことを、見つめ続けてきたと思ってるんですか?」
それには答えず、曖昧に笑った。
彼がくれる優しさに浸かりきっている自分に気づいていた。
告白してくれた彼の想いを受け止めもせず、断りもしない中途半端な自分にも。
甘えすぎだ、私。
男の人に、それも年下の部下に。
「その人を忘れるために、仕事も頑張ってきたし、誰かと付き合ってみたりもした。けど、結局今のままなんだよね」
変わってない自分がいる。
あの失恋から立ち直っていない自分に、ふとした瞬間、出会ってしまう。
「そんなに好きだったんですね……なんかヤキモチ焼きそう」
「田島くんって、結構ヤキモチ焼きだよね」
「からかうなら、もう一回、キスしますよ?」
耳元で囁かれて、身体を震わせた。
耳が弱いのだ。吐息を感じるだけで、身体の芯から力がぬける。
そんな私をガッチリした腕が、支えた。
「へぇ。主任、耳弱いんだ」
からかわれたのが悔しくて、睨むように彼を向くと、目を細めながら、唇の端を持ち上げていた。
その瞳に、また熱情が滾っている。
心臓が自己主張するみたいに、跳ね上がった。
「カピバラくんのくせに……そんな目をするなんて」
苦し紛れにそんなことを言うと、
「見た目は草食系でも、普通に中身は肉食ですから?」
「……ロールキャベツみたいね」
そう言うと、彼は朗らかに笑った。
「そんなこと言われたの、初めてです」
「私だって、男の人を食べ物に例えたのは初めて」
「あ、初めてなんですか?食い意地張ってたわけじゃないんだ」
言葉の後半は、独り言みたいに呟いた田島くんだったけれど、敢えて私に聞こえる声で言ったからには、私をからかっているのは明確。
「ひどい~!」
どっちが先輩なのか、分からないなぁ。
でも、こんなことをされても、憎めない何かがある。このカピバラくんには。
それが、分かっているから、私もすぐに笑顔になる。
「ねぇ、主任。また落ち着いたら、『郷』に食べに行きましょうよ?」
私の行きつけのお店、『郷』
二人で行った帰りに、彼に告白されたのだ。
また二人で行こうって言ってたのに、結局バタバタして、あれから一度も行けてない。
「そうね。またご主人、ロールキャベツをサービスしてくれるかも」
「主任。ロールキャベツ、好きですよね」
「大好きよ」
あの優しい味を思い出して、私は微笑む。
私の笑顔を見つめて、田島くんも微笑んだ。
「ロールキャベツ系男子もそんな風に"大好き"って言ってもらえるように頑張らないと」
決意を見せるみたいに、さらに笑顔を深めた彼は、歯を見せて笑った。
その笑顔が、あまりに優しくて。
温かい気持ちで、吐息した。
━━━好きになりたい。
あなたと恋に落ちて。
昔の恋なんて、忘れられるほど、あなたを愛し、愛されたい。
過去の恋に唇を噛み締めて、縋るように、私は彼を見つめた。