ロールキャベツは好きですか?
「なに、しけた顔してんの。カピバラくんが」
混み合う社食の俺の隣に、そっときつねうどんを置いたのは、向井園華(むかいそのか)だった。
向井とは高校からの腐れ縁。
三年間同じクラスで、卒業後にああこれで縁も切れると思いきや、社会人になって、会社でばったり鉢合わせ。
最近知ったことだが、向井は次期社長ではないかと社員の間で噂されている向井専務の一人娘らしい。
「……向井」
「元気のないカピバラくんって、砂漠を歩くペンギンを見るより珍しい」
「……勝手に言ってろ」
フンと視線を逸らした先には、向井の左手があり、俺は慌ててラーメンを見つめる。
彼女の薬指に嵌められたプラチナのリングは、彼女がふとした仕草をする度に、光を放つ。
「あ、もしかして、私が結婚するからちょっとショックになってる!?」
「お前、よくそこまで自惚れられるよな」
半端呆れつつ、ラーメンをすすった。
けれど、胃がさっきから拒否反応しか起こさないから、麺は喉に滞る。
まぁ、こいつも事の一端握っているから、こいつの結婚がショックという言葉にあながち間違いはないかもしれない。