ロールキャベツは好きですか?
ちょっと早いけど仕事をしよう。
3時から新しく駅前にできるドラッグストアの店長さんのところへ営業に行く。
渡邊主任と一緒に。
そのための資料は揃っているけれど、来週の営業に必要な資料はまだだ。
それをさっさと作ってしまおう。
デスクに座って、コンピューターを起動させていると、
「田島ー!」
なぜか経理部の向井がうちのオフィスに来た。
ズンズンと俺の隣まで歩いてくる。
向井のいる経理部のフロアはこの階ではないから、本当に用事があって来たらしい。
でないと、わざわざ俺のところまで来るわけない。
昼休みだから人はまばらとは言え、それでも、自身のデスクにいる人は向井に好奇の視線を向けている。
それもそうだろう。
このフロアは営業部。
そこに営業部長の婚約者が登場したのだから。
しかも何故か俺の名前を呼んで。
「何?向井」
俺にまで好奇の目は向けられる。
憚るという言葉を知らないのだろうか?うちの部は。
「あんた、社食にスマホ忘れてた!」
「あっ」
自分のスーツのポケットに手をやると、そこにあるものがない。
社食で食事をする前にちょっと触ったまま、置き忘れてた。
「ホント、あんたってどっか、抜けてるよね」
「ひでー言われよう」
「だったら置き忘れるな」
呆れたようなため息をつきながら、俺の黒のスマホを差し出してくる。
俺は感謝の意味を込めて、ありがたく両手で受け取った。
「サンキュー。マジで助かった」
わざわざ届けて頂いたスマホを自分のポケットにしまった。