ロールキャベツは好きですか?
店のご主人が淹れてくれたほうじ茶を飲んでいると、ガラガラと引き戸が開いた。
立っていたのは、誘ったお相手、田島くん。
店内はそこまで混んでいないから、田島くんはカウンターに座る私をすぐに見つけて、こちらまで歩み寄ってきた。
「お疲れ様」
「お疲れ様です。遅くなってすみません」
昼休みよりか、いくらか怒りがクールダウンした田島くんは、私の隣の席に腰を下ろす。
「お腹空いた~!今日は何食べる?」
「そうですね。夜は冷え込んできたので、暖かいものが食べたいです」
今晩は、思わず身を縮めるような、冷たい風が吹きすさんでいる。
冬物コートはまだ出していないから、寒かった。
隣を見ると、田島くんの耳たぶが赤く染まっている。
きっと触れれば、驚くほど冷たいのだろう。
「シチューなんかもあるんですね」
田島くんの声に視線をメニューに向ける。
「ああ、うん。ここのシチュー、なかなかいいよ。お母さんの味とおんなじ味がする。……あ」
うっかり、部下を相手に、母のことをお母さんと呼んでしまった。
それに気づいた田島くんは、そっと穏やかな笑顔を見せてくれた。
「いいですよ。"お母さん"でも。より一層親近感が湧きますし」
「田島くん、何故か、私よりうちの家族に馴染んでる感じだしね」
「昨日、杏ちゃんに会って、遊んでもらいました」
杏は私の姪っ子だ。
しかし、祖母と母の法事の時以来会っていない。
「いいなぁ!!」
本気で唇を尖らせた私に、田島くんは苦笑をこぼした。