ロールキャベツは好きですか?

やがて、彼は静かな口調で語りだした。

しかし、淡々とした物言いが、今まで堪えてきた怒りを顕著に表しているかのようだった。

シチューを一口食べるたびに、紡がれる過去。

田島くんと、玲奈さん━━━夏川玲奈(なつかわれいな)さんは、高校の同級生だった。

二年の文化祭で実行委員長を務めたことがきっかけで仲良くなり、二人は付き合うことになる。

不器用で恥ずかしがりだった田島くん。
初めての彼女に、うまく気持ちは伝えられなかったそうだ。

「その代わり、沢山スキンシップはしてきたつもりでした。それだけで気持ちは伝わるとあの頃は本気で信じていた」

過去を語る彼は、遠い目をしていた。

その瞳の先には、ただ一途に、玲奈さんを愛していた自分がいるのだろう。

不器用で照れ屋。
言葉で表わせなくても、態度で示していた。

━━━けれど、その想いは通じなかった。

「大学が別になって、なかなか会わない日が続きました」

部活やバイト、勉強で、予定がすれ違い、半年間会わない日が続いたらしい。

久しぶりに予定が合って、デートをすることになったある日。
突然、彼女から別れを切り出される。

会えないまでも、電話やメールで気持ちは繋がれていた、と思っていた田島くんは、彼女に理由を問いただした。

「そしたら、あいつは言うんです。……妊娠三ヶ月だって」

私は息を呑んだ。

半年会わなかったカップル。
彼女の妊娠。しかも、三ヶ月目。

これが意味すること。
それは……

「バイト先の正社員の人と、いい仲になってたらしいんです。俺がいることを、玲奈もその相手も知りながら」

当時を思い出したのか、彼の唇が辛そうに歪んだ。

私は返す言葉を見つけられず、結局そのまま、無言で続きを促すことになった。

「俺。裏切られたみたいで、悔しくて、悲しくて、思わずひどい言葉を、玲奈にぶつけました」

本気で彼女を愛していたなら、当然のことだ。

「そしたら、彼女は言うんです。"祥吾は私のこと、好きって言ってくれないじゃない!"」

気持ちはやっぱり、言葉にしないと、通じないんですね。

自嘲めいた笑いをその横顔に浮かべた。

まっすぐ、私に気持ちをぶつけてくれた田島くん。
こんな過去があったから、あんなにも、まっすぐな告白してくれたのかな。

「俺はその後も散々ひどいことを言いました。帰ってからすぐに、あいつの連絡先も消して。……だけど、後になって、冷静になって、自己嫌悪と罪悪感に苛まれました。それからです。俺の温厚主義が始まったのは。人といざこざになるのを自ら避けようとしました」

ああ、なるほど。
これが温厚『カピバラくん』の誕生か。
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