ロールキャベツは好きですか?
「双山部長に出会ったのは、入社してすぐ。研修を担当してくれたのが彼だった。営業のやり方を知らない私たちに、一から仕事を叩き込んでくれたの」
主任の視線は俺がテーブルに置いたカピバラのマグカップに移り、俺はその横顔を見つめる。
彼女は静かな横顔を取り繕い、凛とした雰囲気を佇ませようとしていたが、残念ながら、それはできていなかった。
触れれば波紋が広がり壊れそうな、水面の月のようだった。
いつものサバサバしていた主任は、仮面を被っていたのでは?強がりばかりしていたのでは?━━━そんな風に思えるほど、双山部長のことを語る主任の表情は弱々しい。
「彼はいつも私の前を歩いていて、その背中を追いかけるのが、本当に楽しかった。
若かったのよね、私も。
仕事で失敗して、色んな人に迷惑かけたとき、一緒に謝り倒してくれた。
そして、落ち込まないよう、呑みに連れていってくれて、私を励ましてくれたの。
今になって思えるわ。それは上司として、中間管理職として、当然のことなのよね。
……だけど、あの頃はそれもわからなくて。
好きになるのに、時間はかからなかった」
フッと笑みをこぼした彼女は、当時の自分を回想し、自嘲してるのかもしれない。
今語られているのは、思い出のほんの断片。
きっとその断片と断片の間にも、たくさん、思い出があるんだろうな。