ロールキャベツは好きですか?

忍は当たり前の顔で、私の前に座る。
何故かこいつは毎回私の前なのだ。

別に話は合うからいいんだけど。

「佐藤さん。元気してる?」

佐藤さんが辞めて、早1ヶ月だ。
お腹の子はそろそろ安定期に入る頃。

「お陰様で、つわりもおさまってきたし。あれ以来流産になりかけたことはない」

「そう。よかった」

切迫流産になった彼女のことを、密かに心配していたのだ。
彼女自身、そこまで体力がある方ではないし、何より初産である。

実家は遠いらしいから、不安なども、一人で抱え込んでしまっているかもしれない。

「マタニティブルーにはなってない?」

「ああ、うん。それは大丈夫。むしろ俺のほうが過保護って言われてる」

「あ、そう。松谷課長、心配症だもんね」

からかうように言うと、彼は困ったかのように、頭を掻いた。

ちょうどそのタイミングで、お酒が運ばれてくる。
みんなでお疲れ様の乾杯のあと、それぞれがおしゃべりを始めると、私はまた忍に話しかけた。

「名前とか考えてるの?」

「いや、まだ。性別もはっきりしてないし、子供の顔を見て決めようかなぁって思ってる」

笑う彼は、幸せそうだった。
成績トップの強引営業マンもこう見ると、ただの優しいお父さん。

「幸せそうだね。松谷課長」

こんな彼の表情を見れるなら、別れてよかったかも。
きっと私と一緒にいれば、それなりに刺激的な毎日だけど、こんなとろけるような、笑顔は見れなかったはずだ。

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