ロールキャベツは好きですか?
「それはそうと、双山部長が結婚を決意した理由って聞いた?」
「え、知らない」
そういえば、向井さんと双山部長が付き合ってたって話も聞いたことがない。
「他の課長とかが、噂してたんだけどさ。向井さんの父親の専務が社長になった暁には、双山部長の出世が約束されてるんだって」
「え、何それ」
結婚って出世のため?
「向井さんからしたら、政略結婚みたいな感じなんだって」
「……そんなので、向井さん幸せになれるの?」
「さぁな。他の社員から陰でブーイングされてるよ。双山部長」
胸の中で、何かが消えたのを感じた。
その途端、これで良かったんだって思えた。
私と付き合わなかったのは、きっと出世に何のメリットもなかったから。
向井さんと結婚するのは、出世が約束されているから。
恋人にはなろうとしないくせに、身体の関係だけは望む最低な男。
4年間の恋が一気に冷めた瞬間だった。
「そんな方法でしか、出世できないなんて、ね」
私は嘲笑した。
昔好きだった男の無能さを笑い、そんな彼に惚れていた自分を笑った。
「祈梨?」
「見てなさいよ。私は実力で出世してやるんだから!」
誰に言うわけでもない。
夜空に叫んだこの誓い。
非情な仕打ちに打ちのめされることになるとは、このときの私はまだ知らない。