ロールキャベツは好きですか?
━━━記憶を少し巻き戻してみよう。
祈梨さんと晴れて交際を始めて1ヶ月。
金曜日の夜は、祈梨さんの家に泊まることが定番となっていたが、今日は祈梨さんが同期会で飲みに行くというので、俺も大学のサークル仲間と飲みに来た。
祈梨さんの合鍵は預かっているから、一次会だけ参加して、祈梨さんの家に行くつもりだったのだ。
集まった居酒屋はわりと俺の会社の近くで。
二次会への誘いを断って駅まで歩いていると、ちょうど会社帰りの向井に出くわした。
うつむきがちに歩いている向井はどこか疲れたような雰囲気だから、俺は明るめに声を掛けた。
「お疲れ。今帰りか?向井」
声を聞いた向井が顔を上げて、俺は息を呑んだ。
外灯に照らされたその頬に残る筋道。
驚いた。いつだって、向井はヘラヘラ笑って俺をからかってくる奴だったから、泣いている姿を見たのはそれが初めてだったのだ。
「田島……」
呆然と俺の名を呼んで。
「ちょっ……向井……!?」
次の瞬間
向井に抱きつかれていた。
俺は無防備だったから、不意の出来事に困惑した。
状況を飲み込もうと、その肩を掴むと小刻みに震えていた。
「向井……何があった?」
奴は俺の問には答えず、額を胸に押し付けてきた。
そして、冒頭に戻る。