ロールキャベツは好きですか?

「何があったんだよ」

缶コーヒーのプルタブに指をかけながら、尋ねると、缶を手に転がしながら、向井は俯いていた。

また、涙の粒は落ちてきて、奴のスカートに模様をつける。

「……双山さんにね、言われたの。外かは夫婦に見られるように体裁を整えてくれるなら何してもいいって」

「……はぁ?」

今日3回目のはぁ?だ。

祈梨さんからの話で、双山部長が最低な男だとは思ってたけれど。
婚約者に対して、何その言い方?

「子供さえ作らないなら、浮気してもいいんだよって」

出世を目的とするために、部長が向井と結婚するという噂は薄々聞いていた。
祈梨さんには傷ついてほしくなくて、彼女の耳には入れないようにしていたけれど。

『 私と付き合っても何のメリットもなかったんでしょう』

祈梨さんの悲痛な声を思い出す。

双山部長にとっては、向井はメリットがあるから結婚するんだ。
出世というメリットが。

でもメリットのある女でさえ、妻としては扱う気はないって。

「……最低な男だな、本当に」

俺の眉間にシワが寄る。

なんで双山部長の行動に泣いている女が俺の周りに二人もいるんだよ。

向井は政略結婚させられた、って噂があるけれど、この様子じゃ少なくとも、向井の方は部長に好意があるようだ。

なんで、あんな奴がモテるんだ?
みんな人を見る目がなさすぎだろ。
< 144 / 210 >

この作品をシェア

pagetop