ロールキャベツは好きですか?

「そっか。カピバラの田島にも彼女できたか」

やっといつもの調子で俺をからかってくれたから、ホッとした。
おんなじ調子でいつものように、言い返す。

「俺はカピバラじゃない」

「カピバラの彼女だから、ビーバー?」

「どんな関連だよ!」

いつもどおりの俺たちに戻ったら、向井はやっと声を上げて笑った。

「私頑張る。双山さんが帰ってきたいって思える家、作る」

言い切る向井の声は清々しい。
俺はその声に促されるままに、口を開いた。

「なぁ向井」

「ん?」

「俺、ちゃんと玲奈と話し合うよ。ものすごく嫌な感じで終わらせたから、ちゃんと"終わり"をやり直したい」

「本当に?」

向井が目をパチクリさせて、俺を見つめる。
無理もない。玲奈がいるという理由で同窓会にも出ない俺が、玲奈と直接会って話すと言うのだから。

「俺もけじめつけなくちゃいけない。今の彼女とちゃんと向き合うためにも」

「大切なひとなんだね。その彼女さん」

「うん」

大切で、失いたくはないひと。
そばにいてほしいひと。

「玲奈もね。あのときの事ちゃんと謝りたいって言ってたよ」

「そっか」

「うん……あ、は、」

「は……?」

ハクショーン!!って盛大なくしゃみをして、向井が鼻をすすった。

「さすがに冷えたな。そろそろ帰ろうか?」

「うん」

ようやく立ち上がってから空の缶は自販機横のゴミ箱に捨てた。

「田島。今日はありがとう」

「うん。じゃあ、また来週」

公園の出口で右と左に別れた。

俺はコートのポケットに手を入れて歩く。
ポケットの温もりと冷たい鍵の感触。

祈梨さんの家の合鍵。キーホルダーはカピバラではなくアルパカだ。

もしかしたら、祈梨さんのほうが帰ってるかもしれない。

━━━会いたい。祈梨さんに早く。

俺の脚は早足になっていた。
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