ロールキャベツは好きですか?
仕事で使う資料を手に、身なりを整えた部長は颯爽と会議室を出ていった。
何もしたくなくて、早退しようかと思ったが午後からのアポがあったことを思い出した。
すでに外出の準備がしてあるとはいえ、腕時計の針は予定していた出発時刻に近づいている。
下腹部の痛みをこらえながら、私も乱れたスーツを整える。オフィスに戻る前に、化粧室に寄って髪も戻した。
幸い、メイクはほとんどナチュラルに近いから涙のあともそこまでわからない。
「よし」
化粧室の鏡を相手に笑顔を作る練習をしてから、オフィスに戻った。
「戻りましたー!」
「あ。お疲れさまです。渡邊主任」
デスクの隣には当たり前のことながら、祥吾くんがいた。
━━━ああ、どうしよう。祥吾くんに会わせる顔がない。
祥吾くんが向井さんを抱きしめていたことも気にかかったけれど、今ここで訊くわけにもいかない。
それに私に尋ねる権利なんかない。無理矢理とはいえ、私はしてはいけないことをしてしまった。
これ以上の裏切りってない。
「ん?どうかしましたか?」
あまりに長いこと祥吾くんを見つめていたものだから、彼は首を傾げた。
「ううん。なんでもない」
笑ってごまかしながら、私は外出用のバッグを手に取った。
「営業行ってくる」
ほとんどオフィスにいる人と顔を合わせることなく、私は外回りにでかけた。