ロールキャベツは好きですか?
━━━やっぱり、幸せなんて続かない。
ううん。違う。
私には幸せになる権利なんて最初からなかった。
……私は最低な女だから。
きっとバチが当たった。
そんな不安定な心で取引先へ向かったのだから、契約へこぎつける手応えは皆無だった。
「渡邊。顔色悪いぞ」
「……平気よ」
私のデスクの横を通りかかった忍に声を掛けられる。
「今日はもう帰ったほうがいいんじゃないか?」
「……まだ仕事残ってるから」
今ここで仕事の手をやめたら、次はきっと更にやる気が起きない気がする。
「大丈夫。私は大丈夫だから」
「お前の大丈夫ほど当てにならないものはないんだけど」
腕時計を見ると、18時を過ぎている。
普段なら今ぐらいの時間など残業のうちには入らない。
「大丈夫」と言いながらも、身体の芯から力が抜けていることは気づいていた。
「……やっぱり帰る」
「そうしろ」
今なら双山部長も席を外している。
隣の席の祥吾くんもさっきから資料室にこもっている。
今なら二人に顔を合わさずに帰れる。
さっさと帰宅準備をして、デスクを整頓した。
「お先に失礼します」
「お疲れさまでーす」
所々から返ってくるお疲れさまを背中で受け止め、足早にフロアを出た。
あのあと、部長とは顔を合わせる機会はなかったけれど、祥吾くんは隣の席だから、避け続ける訳にもいかなかった。
それでも、いつも以上に口数が少ないことを、鋭い祥吾くんは気づいているかもしれない。