ロールキャベツは好きですか?

数日後。
私は双山部長の手が空いているときを見計らって、自ら部長を呼び出した。

「お前に呼び出されるとはね……こないだのだけじゃ足りなかった?」

寒気がするようなセリフを吐く部長に、ニッコリ営業スマイルを向けた。

「いえ、仕事のことでぜひとも双山部長に見ていただきたいものがありまして……」

「なんだ?」

仕事の話かと見るからに残念がる部長に私は手に持っていたものを差し出した。

「これです」

「……っ……これ……」

部長は絶句している。構わずに私は微笑んだ。

「3月は有給消化に入ると思いますので、それまでに引き継ぎを部下の田島にさせます」

「祈梨……お前」

私ができる精いっぱいの仕返しだ。予想外の私の行動に、部長は二の句を告げられない。

「3月末までこのことは内密にお願いします。双山部長、長い間、お世話になりました」

私は頭を下げた。
これでもかというほど丁寧に。

「祈梨……待てよ。俺のせいなのか?俺が無理矢理あんなことをしたから……」

私が手渡した『辞表』をくしゃりと握りしめて、部長は顔を青ざめている。

「ええ。あなたの部下として働くぐらいなら、無職になったほうがマシだわ」

「悪かった。本当に出来心だったんだ!」

途端に手を合わせて謝り始める部長に私は呆れのため息をついた。
今更謝ってすむ問題じゃない。

「私、もう決めましたから。向井さんを大切にしてくださいね。部長」

「祈梨……」

未練たらしく手を伸ばしてくる部長から距離をとった。

「部長今までありがとうございました」

呆然とする部長をおいて室内を出た。
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