ロールキャベツは好きですか?
「私、そろそろ仕事戻るわ。私の大事なアシスト奪って奥さんにするんだから、幸せにしなさいよ」
「当たり前だ。お前の苦労は無駄にしないさ」
彼の堂々とした宣言を聞いてから、私は店を出た。
そして、また、仕事場に戻る。
私の席の島はまだ明かりが灯っていた。
「田島くん?まだ残っていたの。お疲れさま」
私の隣の席の部下が、こちらを振り返った。
「あれ、渡邊主任。帰られたんじゃなかったんですか?」
「所要で抜けてただけよ。急ぎの仕事はないけど、出来る限り早めに終わらせときたくて」
「主任。無茶しないでくださいよ?この頃残業続きじゃないですか」
キョトンと隣の田島くんを見た。
田島祥吾(たじましょうご)。
私の4つ下の25歳。
カピバラみたいなノホホンとした顔は人に癒しを与える。
「カピバラくんに心配されちゃった」
草食系男子だと意外と女子に人気の彼は、みんなからのあだ名『カピバラくん』と呼ばれて少し拗ねたように口を尖らせた。
「俺だって心配しますよ。というか、カピバラくんってやめてください」
「カピバラくん可愛くて、いいじゃん」
「可愛いって言われるの、男として、何か嫌です」
彼はフンとパソコンに向き直った。
女子がこの子を可愛がるのが分かった気がした。
この子、女の中の母性本能を燻ぶらせるのがお上手だ。