ロールキャベツは好きですか?

しばらく無言で、その毛糸を見つめていた。

祈梨さんに赤ちゃんがいた……。

じゃあ、その子どもは?
その子の父親は、誰?

どうして教えてくれなかった?
俺ってそんなに信用ならない?

「……もう一つ、教えとくよ」

洋平さんは俺のほうを見ようとはせずに、淡々と言葉を紡いだ。

「……姉ちゃんはもう子どもが産めない」

「……っ!?」

息を呑んだ。
子どもが産めない……。

もしかして……この間の電話……。

『 今まで、自分の子供がほしいって思ったこと、ある?』

あれは……話の流れで出てきたものではなくて、俺の反応を試していた?

俺は欲しいって答えた。
いつか父親になって家族を守っていきたい。それは俺が学生時代から漠然と思っていたことだった。

自身は子供を産めないことを分かっていた。だから……俺と別れようって……?

結婚願望は特にないと前に言っていたときのことを思い出す。

あれは、アシスタントの佐藤さんが寿退社する送迎会でのことだった。
恋人が自分を捨てて他の人と結婚するというのに、彼女はやけに冷静で、佐藤さんの妊娠を心から祝福していた。

他の女性社員に結婚や恋愛について突っつかれたとき、はっきりと答えた祈梨さんだったけど、今思い返せば、その笑顔が滲んで見えた。
< 184 / 210 >

この作品をシェア

pagetop