ロールキャベツは好きですか?

彼の指先がそっと私の目尻を拭った。
顔を上げると、目の前には哀しそうな目をした祥吾くんがいる。

「確かに俺、子供にほしいって言いました。妻がいて子供がいて。そんな家庭に憧れはあった」

まっすぐ瞳を覗きこまれて、言葉を紡がれる。
それは彼が本心を伝えようとしてくれる証。

「でも、そんな憧れ、祈梨さんを傷つけてまで叶えたいものじゃないです」

「……祥吾くん……っ……!」

そんな言葉反則。

私の涙はますます溢れてきて、うう~という色気も可愛げもない声を出した。

「別れるなんて、言わないで。祈梨さんが、そばにいて笑っていてくれるだけで、俺は幸せだから」

私は彼の首に腕を回す。
首筋に顔を埋めて、号泣した。

そんな私の頭を祥吾くんは、優しく撫でる。

忍と佐藤さんと向井さんは、私たちに気を遣って、室内から出ていった気配がした。

やがて、私の涙が嗚咽に変わり、彼の首から顔を上げることができるようになった頃。

「もう辞表は要らないですね」

耳元で囁かれた言葉に私は何度も頷いた。

辞表は二人でビリビリに破って捨てた。
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