ロールキャベツは好きですか?
「あ、ごめん。電話だ」
祥吾くんがジャケットのポケットから、スマホを取り出し、店の外に出た。
私は目の前のリングにそっと触れる。
光を受けて輝くエメラルド。
エメラルドの中でも、特別、薄いこの色を選んだのは、祥吾くんだ。
これは、私が今も大切に残している、あの靴下によく似た色。
祥吾くんが時々作ってくれる私が大好きなロールキャベツにも近いかも。
あと、初めてのクリスマスプレゼントで私があげた緑のネクタイもこんな感じ。
今度行く新婚旅行先の海はエメラルドグリーンだって聞く。
「祈梨さん。ニヤけてる。ニヤけてる」
玲奈さんにからかわれて、私は慌てて、手のひらで口元を隠した。
「おまたせ~。あれ?どした?祈梨さん、顔真っ赤」
電話を終えて戻ってきた祥吾くんが私の顔を見て不思議そうにする。
「祈梨さんがニヤけていたから、からかったの!それより、忙しそうだね。新主任は」
そうなのだ。今年、28歳になった祥吾くんは営業部第二課の主任となった。
それを機にプロポーズしてくれたのだ。
「課長に就任した奥さんには負けるよ」
私は現在、第三課課長。
女性初の課長、就任です。
双山部長の退職後、部長に就任したのは、松谷忍。
最年少の部長であるが、色んな人から信頼され、向井さんのお父様、我が会社の専務にも注目されている。
しかし、会社では大活躍の忍だが、奥様の佐藤さんに、私との二股騒ぎがバレて、しっかり尻に引かれているらしい。
まぁ、自業自得だ。
「急遽、仕事が入ったわけじゃないのよね?」
「ただの質問だよ。口頭で答えられたから、問題なし」
「そっか。良かった」
私は微笑んだ。