ロールキャベツは好きですか?

side:祥吾


渡邊主任が連れてきた居酒屋はこじんまりとしていて、だけどそこに溢れる匂いはどこか懐かしく温かいものだった。

「なべちゃん。いらっしゃい」

渡邊主任をなべちゃんと店の主人は呼んだから、彼女はなかなかの常連客らしい。

主人は主任のあとに続いて入ってきた俺を見て、少し驚いたあと、ニッコリと微笑んだ。

「いらっしゃい。なべちゃんが他の人を連れてくるとはね。いつもの子はどうしたんだい?」

『いつもの子』というフレーズにやや引っかかったが、そんな俺の心を知るはずもなく、主任はいつもの完璧スマイルで主人と話を続ける。

「今日は部下を連れてきたのよ。彼もこの近くに住んでるらしくてね」

主人と主任に薦められるまま、カウンターに腰を下ろした。

「ここのオススメは何ですか?」

常連客らしい主任に尋ねると彼女は形のいい眉をうーんとひそめた。

「どれも美味しいからなぁ。田島くんはあっさりした野菜って言ってたよね?」

「あっさりとは言いましたが何も野菜限定とは言ってません」

すかさず反論しておく。
まぁ聞いちゃいないけど。

「ほうれん草のおひたしとか……白菜もそろそろ美味しくなってくるぐらいか。でも何と言ってもここの肉じゃがは最高よ。あ、でもこれは肉入ってる」

「主任!俺カピバラみたいな顔かもしれませんけど、普通に肉食えますから!」

野菜は結構好きだけど、肉も好きだし!!

「あ、そうなの。でもカピバラは紛れもなく草食動物じゃん?」

「しかし、俺は紛れもなく人間ですから!」

俺たちの前に温かいお茶を淹れてくれたご主人が、俺たちの会話にプッと吹き出した。

ひどいよ、主任。
子供っぽいところはわかっているけれど、ふてくされる。
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